asahi.comより抜粋。
音楽大学を舞台に天才肌の女子学生が音楽道を突き進むマンガ「
のだめカンタービレ」のヒットが、音楽業界に思わぬ風を吹かせている。
単行本16巻は1800万部を売り上げ、タイアップCDや演奏会の企画が相次ぐ。10月にフジテレビ系で始まった連続ドラマも視聴率18%前後(関東地区、ビデオリサーチ調べ)と好調で、「のだめ現象」に拍車をかけている。
「
のだめ様々です」と喜ぶのは、「
のだめ」を意識したプログラムも組む名古屋フィルハーモニー交響楽団の演奏事業部主任、吉川功さん。
どの演奏会も問い合わせが増え、聴衆が気軽に楽団員の楽屋を訪れるようになった。
「演奏家を特別な存在でなくし、見事にクラシック音楽の底力を示してくれた」と話す。
今後も中高生とのジョイント演奏会など、新しい企画を仕掛けていく予定だ。
新日本フィルハーモニー交響楽団は、ドラマ開始直後、定期演奏会のチケットがいきなり完売した。「週初めの月曜、しかも大きなサントリーホール。
この条件で、前売りが全部売れたことなどなかった」と広報の関顕治さん。
ドラマに演奏で協力している東京都交響楽団も「定期演奏会でも、プログラムにドラマに出てくる曲がある日とない日ではチケットの売れ行きが格段に違う」(守屋新アクティング・チーフ・プロデューサー)という。
◇着オケもヒット 「
のだめ現象」を象徴する曲が、ドラマの冒頭で毎回流れるベートーベンの交響曲第7番だ。
新日本フィルが携帯電話で曲を配信する「着オケ」で、初回放送直後から1カ月間の7番のダウンロード数は、その前月の約20倍に急増。
都響も来年2月に演奏するが、約2000席の会場で、すでに残席100を切った。
通常なら5割売れれば御の字の時期にもかかわらず、だ。
ドラマ曲を収録したCD「
のだめオーケストラLIVE!」は20万枚(11月30日調べ)売れ、クラシックCDとして初めてオリコンチャート初登場7位に。
今月下旬には、4〜5月に東京で開かれる音楽祭「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン(熱狂の日)」とのタイアップで音楽コンテストなどが開かれる。
固定ファンに守られていたクラシック音楽の硬派なイメージを突き破った「
のだめ」は、聴衆の新規開拓が大命題の音楽業界にとって、まさに「救世主」的存在だ。
「
のだめ」連載中の講談社Kiss編集部、三河かおりさんは、「自分が周囲からどう見られているかを気にしすぎて疲れることが多い今、自分たちの音楽に真剣で、周りにどう見られようと気にしない個性的な登場人物たちに癒やされる人が多いのでは」とヒットの理由を分析する。
アイドル評論家の北川昌弘さんは「『ハチミツとクローバー』など芸術系大学を舞台にしたマンガが今、注目されている。
普段足を踏み入れないが、面白いことが満載に違いない――。
そんな夢のある現実逃避を提供してくれる場所なのかもしれない」と話す。
さらに今回のブームを決定づけたのが、一晩で膨大な数の人が見るドラマの力。
ドラマの「ブラックジャックによろしく」を手がけたTBSの伊與田(いよだ)英徳プロデューサーは「通常なら重厚すぎてドラマから浮きがちなクラシック音楽を、堂々と真正面から聴かせる環境を巧みに作り出している。
してやられた、という感じ」と評価する。
84年の映画「アマデウス」のように、音楽を題材にした作品はブームを起こしても音楽業界からはブーイング、ということも多いが、「
のだめ」はファンを自称する専門家が少なくないのも特徴だ。
音楽評論家の畑中良輔さんも「音楽をしている人の感じがよく出ている」と、毎回リアルタイムでドラマを楽しむ。
◇父親世代も納得 大阪大助教授の伊東信宏さんは「『
のだめ』は若者向けのドラマだが、旧来のファンがクラシックに求める教養主義をも、うまく薄めて温存している。
また、その見せ方がおちゃめだから父親世代のファン層もくすぐる。
そのあたりの呼吸が絶妙」と語る。
「クラシックへの『入り口』として、『
のだめ』は決して的はずれではない。ここからは音楽業界が、そのファンをさらに深みに引きずり込む番です」
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